幸福は無常であり続かない幸福であることはこちらで説明しました。
無常であるために様々な欠点が生み出されます。
幸せであるほど強い不安
たとえば、失う不安がつきまといます。恋愛している人であれば失恋の不安があり、仕事をしている人であれば仕事の不安があるという具合です。幸せであればあるほど失った時の落差は大きくなるため、失うことへの不安も強くなります。
「科学が発達し物質的な面ではずっと幸福になったものの、われわれすべての心の底にある、安全を求める願いが満足できないのである。社会保険があっても、将来のことが心配だ」(アレクシス・カレル/1912年ノーベル生理学・医学賞受賞)
南こうせつの代表曲に「神田川」がありますが、この歌の中には、「何も怖くなかった。ただ貴方のやさしさが怖かった」という歌詞があります。普通は優しくされれば嬉しいものですが、「怖い」と言っています。失う不安があるから優しくされるほど怖いということです。
お笑いタレントの内村光良は、「今やゆるぎない地位を築かれて、内村さんほどになれば、もう安泰ですよね」と聞かれて次のように答えています。
「いや、まったくです。いつ売れなくなるか怖いですし、お呼びがかからなくなったら終わりだなと思います。いま、ありがたいことに、お呼びがかかってるからなんとかやれているということですね」
同じくお笑いタレントのブルゾンちえみも次のような話をしています。
「“35億”がヒットしてからは、新ネタのことばかり考えていました。受ければ受けるほど次のネタをどうしようかと不安になるんです。ドラマの話が来た時も、バラエティに出て力を蓄えるべきじゃないかと心配でしょうがなかった」
プロ野球選手の森本稀哲も次のように告白しています。
「レギュラーに定着し活躍したと言われますが、自分は必死。毎朝起きたら『結果を残さないとはずされる』と不安になり、結果が残っても寝る前は携帯電話で打率をチェックして、『これで明日もチャンスがある』っていう連続」
AKB48の渡辺麻友は選抜総選挙で1位になったプレッシャーを次のように語っています。
「人に見られることがより多くなるから、ちゃんとしようという意識が強すぎてくだけることを忘れちゃう。2連覇したいという気持ちもあったけどやっぱ怖さもあって、現状維持するか順位が落ちるかの2択ですっごい怖かった、こんな怖い選挙は初めてで、初めて逃げ出したいと思った。今回3位で、残念だったけど安心というかプレッシャーからの開放感で今は凄いすっきりしてる、いろいろ無事に終わって安心って感じ」
日清カップヌードルのCMで「REAL」というシリーズがあります。これはAKBの中でも特に人気があるメンバーが出演し、演技ではなく本音で語るCMとなっています。その中の1つに、メンバーの峯岸みなみが次のように語り、涙を流すシーンがあります。
「今が、人生の一番輝いている時期なんじゃないかなって思うぐらい本当に楽しくて。きっと、将来思い出したら凄い泣いちゃうんだろうなと思うぐらい。今が、ホント全然終わってほしくないなとずっと思ってて。ずっとこのままがいいなと凄い思うぐらい今が楽しい」
彼女は、なぜ楽しいのに涙を流しているのでしょうか。やがて、AKBをやめることになり、今の楽しさがなくなってしまうことを感じ取っているからです。
日曜日の夜になると憂鬱に感じる人がいます。俗に、サザエさん症候群といわれるものです。サザエさんは日曜日の夜の代名詞のような番組なので、このように呼ばれているようですが、まだ休日の最中であるにもかかわらず、終わることへの寂しさを感じているのです。ちなみに統計によれば、自殺者は月曜日の朝が最も多く、土曜日の夜が最も少なくなっています。
この失う不安や恐怖から、様々な苦しみが生み出されます。たとえば「幸せ恐怖症」と呼ばれる心の病もその1つでしょう。失う恐怖から自ら幸せを壊したり、罪悪を造ったり、高じると自殺してしまう人もいます。
「不安はない」という人へ
「続かないと思うけど不安はない」と言う人がいますが、これは、それほど大切な幸せではない可能性があります。
また、「大切だけど失う不安がない」と言う人もいます。これは、いつ溶けるかもしれない薄氷の上を安心して歩いているような状態であり、はっきり言えば鈍感ということですが、これについては後の無常観で詳しく説明します。