幸福は無常であり続かない幸福であることはこちらで説明しました。
無常であるために様々な欠点が生み出されます。
何やっても満足できない
たとえば満足できないという欠点もあります。
周知の通り、現代の日本は物質的には世界で最も恵まれた国の1つです。科学が発達し、物質的には電気などがなかった昔の殿様より良い生活をしているともいえるでしょう。世界101か国の検索データを基に作成された「世界の引っ越したい国人気ランキング」で、日本は2位だったといいます(ちなみに1位はカナダ)。このように日本の生活に憧れている人は多く、そういう人から見れば、日本人は生まれながらにして「成功者」です。
しかし、幸せという点ではどうでしょうか。国民生活白書(平成20年版)には、いわゆる「幸福のパラドックス」と呼ばれる次のような分析結果が載っています。
「1980年以降1人あたりGDP(国民総生産)は年々増加傾向にあるのに、国民の生活満足度は上昇せず、横這い傾向にある」
「所得水準が低い途上国と、所得水準が高い先進国を比較しても、生活満足度はあまり変わらない」
便利や贅沢に慣れると、その便利や贅沢は、もはや便利や贅沢ではなくなり、当たり前になり感動がなくなります。
アインシュタインは、「この壮大な応用科学は、労力をはぶき、暮らしを楽にしてくれるのに、なぜ幸せをこんなにわずかしかもたらしてくれないのでしょうか」と言いました。
クリストファー・ライアン著「性の進化論」では、先史時代がいかに恵まれた時代であったかが示されています。
「『金持ち病』は、人間という動物にとって永遠の悩みの種ではない。それは農耕とともに発生した富の不平等の産物である」
「農耕が発生する数万年前は、邪魔の入らないユートピア的な楽園の時代とは違うかもしれないが、その大部分がわれわれの祖先のほとんどにとって、すこぶる健康で、個人間でも平和で、慢性的ストレスなど非常に少なく、逆に全般的な満足のレベルが高いことを特徴とする時代だったのだ」(「性の進化論」より)
さほどでもない幸せ
「近寄れば さほどでもなき 富士の山」という歌があります。富士山は遠くから見れば美しく見えますが、近づいてみるとゴツゴツとした岩肌が目立つなど、それほどでもないという意味です。
幸せにも同じことがいえます。手に入れる前は美しく輝いて見え、「手に入れれば、きっと大きな幸せを感じることができる」と思っても、いざ手に入れてみるとさほどでもない幸せだということです。
タレントのビートたけしは、こんな話をしています。
「近づいたら一瞬で終わってしまうような気もするよ。近づいちゃったら、魅力はもうそこでゼロになるっていう可能性あるよね。俺なんか、どうせくだらないもんなんだからさあ、手が届かないっていうことが重要で。池とか川でピカピカ光ってるものを、いざ手に取ってみたら鏡の破片だったってことあんじゃない?でも、ピカピカしてるときは魅力あるわけだから。いくらこう取ろうとしても取れなかったら、ガラスの破片でも魅力あるけども、手に取って、ああこれが光ってたんだってわかったら、すでにもうそれで終わりじゃない?」
欲は底なし
満足するどころか、手に入れれば入れるほど、もっともっと欲しくなります。
「誰もが自分の選んだ運命や偶然与えられた運命に満足せず、他の道を歩んだ人々を羨むのはどういうわけだろう」(ホラチウス/詩人)
「ありがたい身分だとは思うよ。でも人間ってホント欲深い。ちょっと前まで、この状態にあることを望んでいたはずなのに、いざそうなってみると、あれが無くなった、あれは無理なんだ、というのが出てくる」(マツコ・デラックス/タレント)
「なんで満足できないのだろう。思っていたのと違う。俺だけ損してるんじゃないかと思うわけ」(有吉弘行/タレント)
これは渇愛といって、書いて字の如く、渇いたように激しく執着する煩悩が人間にはあるためです。
ペンシルベニア大学准教授のロバート・クルツバンは次のように言っています。
「目標を達成したのだから、以後の人生はとても幸福なものになるはずだと、読者は思うのではないか。生活していくのに、もはやたいした努力をする必要はないし、幸せに満ちた毎日が送れるに違いない。そう思うのだ。
ところが、そうは問屋が卸さないのである。目標を達成したことで、しばらくは幸福感に浸っていたとしても、人は比較的早くもとの幸福度に戻ってしまい、次の大きな目標の達成を渇望し始める」
経にも次のように説かれています。
「適一つあればまた一つ少けぬ。これあればこれ少けぬ。斉等にあらんことを思う」(大無量寿経)
(訳:たまたま一つが得られると他の一つが無くなり、これが有ればあれが無いという具合に、すべてを手に入れたいと思うのである)
哲学者のショーペンハウエルは、「富は海の水に似ている。それを飲めば飲むほど、のどが乾いてくる」と表現しています。
秀吉は日本を支配するだけでは飽き足らず、朝鮮も手に入れようとしています。結果として失敗したものの、成功していれば、次は中国、次はアジア、次は世界、そして地球を支配したら次の星へという具合に、欲望は無限に尽きなかったことでしょう。
限りある命で限りなく欲を満たそうとするのが人間なのです。