【会話の力】メンタルヘルスにも求道にも有効。話し方を気にするより心を込める

様々なコミュニケーションの方法がありますが、特に「会話」が重要です。
歴史を振り返っても、書き言葉のない文明は存在したが、話し言葉のない文明は存在しなかったといわれています。

人と話すと心が軽くなる

精神衛生上も会話が重要であることは周知の通りです。
思ったことをポンポンと吐き出す人は、心が軽くなります。吐き出さずに我慢したりすると、意識するとしないとにかかわらず、腹に溜まっていきます。
そして、精神を悪化させ、高じれば爆発する可能性もあります。
また、相手にとっても、少しうるさいぐらいのほうがいいようです。
「ガン患者さんを見ていると非常によくわかるのですが、積極的で、自己中心的で、少々厚かましいくらいの人のほうが、断然予後が良好です。私は日々ガン患者さんの医療相談を行っていますが、患者さんを大きく2つのタイプに分けることができます。
1つは非常に謙虚で、遠慮深く、あまり質問のないタイプ。もう1つのタイプはしつこいくらいに質問を投げかけてくるタイプ。相談される側としては前者のタイプのほうがやりやすいのですが、結果としてあまり予後がよくないのはつくづく感じさせられるところです。一方、執拗に何度も質問をしてくるタイプの患者さんは、正直うるさいなと感じることもままありますが、結果的にはコミュニケーションもより取れることになり、治癒率も高くなるのです」(岡本裕/医師)

健康面だけでなく、会話の中には人間に重要なものが詰まっており、「しゃべれるようになるだけで人生が変わる」といっても過言ではありません。

しゃべらないと求道が進まない

求道においてもしゃべることは大変重要です。しゃべらないと自己はわかりづらいです。また、アドバイスする側からしても間違いを指摘しづらいです。
しゃべることで多くの個人情報を伝えることができます。声の大きさや調子、間の取り方や話し方、表情やしぐさ等々、言葉の中身だけでなく、しゃべることで発する情報は非常に多くあるのです。国ごとの違いもあるようです。認知心理学者の重野純(青山学院大学名誉教授)は、著書「本心は顔より声に出る」の中で次のように語っています。
「日本では話者の真の感情は言葉ではなく、声の調子に反映されやすい。そのため、話者が本心を偽って話すときの声の調子という非言語的な情報は、感情を伝える過程で言葉よりもより多くの意味をもち、より効果的な役割を果たしていると考えられる」
見るべき玄人が見れば、たとえば仏教でいう善知識が見れば、多くの情報をつかみ、間違いを指摘することができます。

以上のような理由から、しゃべらないということは恐ろしいことです。
「『物を言え物を言え』と、仰せられ候う。『物をいわぬ者は、恐ろしき』と、仰せられ候う。『信不信、ともに、ただ、物をいえ』と、仰せられ候う。『物を申せば、心底もきこえ、また、人にも直さるるなり。ただ、物を申せ』」(御一代記聞書)
(訳:物を言え物を言え。物を言わない人は恐ろしい。信心があると思っている人もそうでない人も、皆ただ物を言いなさい。物を言えば腹底で思っていることもわかり、間違っていれば正すことができる。だから、ただ物を言いなさい)

阿弥陀経には極楽浄土の様子が説かれていますが、孔雀やオウムなど鳥類ばかりで牛や豚などはいません。鳥は消化と排泄が早い動物ですが、ポンポンと物を言い、腹に溜めない人が極楽に近い人です。
もちろん、しゃべれば何でもいいわけではなく、真実を話すなど、これまで説明した心がけが大切です。

雄弁家になる

知識はいっぱいあるのにしゃべれないという人は多いものです。「学校行くよりもしゃべれるようになったほうがいい」と思えるような人もたくさんいます。
ちなみに、ウィリアム・フォン・ヒッペル(クイーンズランド大学心理学教授)は、「社会的知性こそがわたしたちの真の知的馬力であり、IQは、進化した社会的能力が偶然生み出した単なる派生物なのかもしれない」と推測しています。仏には、三十二相といって、見てすぐにわかる32の身体的特徴がありますが、その1つに広長舌があります。舌が広くて長いということですが、これは大雄弁を表しています。仏教者は雄弁家でなければなりません。

会話の心掛け

・対面が基本
ネット時代ですので、世間では対面営業は非効率だとして敬遠されがちですが、こと精神面においてはそうとは限りません。対面にしかないメリットが数多くあります。

・よく聞く
相手の話によく耳を傾け、相手に話をさせることも大切です。
人の話をよく聞く人は、相手に合わせた重い言葉を発し、重い言葉を発する人は、人の言葉も重く受け止めます。人の話を聞かない人は、相手に合わない軽い言葉を発し、軽い言葉を発する人は、人の言葉も軽く受け止めます。聴聞と開顕が両輪であることにも通じます。
「聴聞も傾聴も、表面的には人のいうことをきくということであるが、聴聞には人知を超えた仏の智慧が関与し、傾聴には人の悩みをきくカウンセラーの潜在能力がカウンセリング効果に大きく影響を与えるといえる」(友久久雄/精神科医/京都教育大学名誉教授)

ちなみに、心理学者のジェームズ・ペネベーカーによれば、「人は話せば話すほど、いっそう相手について知ったと思うようになる」といいます。

・話し方より心を込める
テクニック的な話し方を気にするより、心を込めることが大切です。
「お前のほんとうの腹底から出たものでなければ、人を心から動かすことは断じてできない」(ゲーテ/小説家)

「話を聞いていると、どことなく言葉に『遊び』を感じる話し方をする人がいます。概してそういう人は話が巧みで、言葉が流暢です。黙って聞き流している分には、耳に快いのですが、よくよく話を聞いてみると、少しも中身がない場合が多いのです。これを雄弁だと錯覚する人がいるかもしれません。しかし、私は少しも魅力を感じません。むしろ軽薄な感じがして真剣に話す気がしなくなります。さらに言えば、その人の人間性までが、薄っぺらなものに思えてきます。こうしたうわべだけの話し上手をまねしてほしくないと思います。トツトツとした語り口でもいいから、魂から奔り出た言葉でしゃべってほしいと思うのです。一生懸命、なんとか相手に分かってほしいという思いを込めて、心の底から発した言葉は、単なる言葉のための言葉よりも訴える力が強く、聞き手の感動を呼び起こすはずです。やはり、感動を伴ってこそ、心から相手に理解してもらえるのです。変に技巧に走るくらいなら、まず全身全霊を傾けて、一生懸命に話すことを心掛けてほしいと思います」(稲盛和夫)

・しゃべるほど信じていく
良くも悪くも、人に言えば言うほど強く信じていきます。
正しいことを言えば正しい自信につながりますが、間違ったことを言えば間違った自信につながります。間違ったことを人に伝えれば、人を狂わすだけでなく自分もますます深く信じて狂っていくのです。
そして、その狂った自信から人を誘おうとしますが、人は、正しいか否かに関係なく、自信があるというだけで信じてしまいやすいです。
カリフォルニア大学バークレー校のキャメロン・アンダーソンの研究チームが学生たちを被験者として行った実験によれば、多くの人が相手が「博識」なのか「自信過剰」なのかを区別できず、結果として自信過剰な人の言うことに誤ってしたがってしまう傾向があったといいます。
また、アムステルダム大学のリチャード・ローナイの研究チームが経験豊かなプロの人事コンサルタントを被験者として行った実験によれば、的確に自己認識ができている志願者よりも自信過剰の候補者のほうが推薦されることが多く、「現実的な自己認識」と「口から出任せ」を区別することができなかったといいます。

コミュニケーションの有難さ

普段、何気なくコミュニケーションを取っていますが、コミュニケーションが取れるということは非常に有難いことです。 
「閉じ込め症候群」となり、10年間も意識があることに気づいて貰えなかったマーティン・ピストリウスという人がいます。
介護士からは物のように扱われ、看病に疲れた親からも「早く死んでくれ」と請われたそうですが、動けないため自殺もできなかったといいます。
しかしある時、親身になって世話をしてくれていたセラピストが、マーティンに意識があることに気づきます。その時の気持ちをマーティンは、こう語っています。
「言葉では言い表せません。コミュニケーションというのは、できなくなるまでその重要性に気づかないもの。コミュニケーションが僕の人生のすべてを変えてくれました。意志を伝えられるというのは本当に素晴らしい事です」
コミュニケーションが取れるうちに肉体は使うべきです。
ちなみに、今はブレイン・マシン・インターフェース(BMI)等を使って、ある程度は閉じ込め症候群の患者とコミュニケーションを取ることもできるようです。

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