仏教では、人間には「慢」という煩悩があると説かれます。煩悩の中でも特に強いものが6つあり、六大煩悩といいますが、慢はその中の1つです。
慢は主に次の7種に分かれます。
- 慢
人を見下し、自惚れる心 - 過慢
自分と同等の人に対しては自分のほうが優れていると思い、自分より優れている人に対しては自分と同等とする心
例:自分とスキルが同じぐらいの人を見て、「スキルだけでなく、ルックスもいいから総合的に自分のほうが上」と思うetc. - 慢過慢
自分より優れている人を見て、その人より優れている面を見つけようとする心
例:自分よりスキルが上の人を見て、「ルックスは自分のほうがいいから総合的に自分のほうが上」と思うetc. - 我慢
我が強く、謙虚でない心 - 増上慢
知り得ていないのに知り得たと思う心
例:仏教を聞いて「その話は知っているから聞かなくていい」と思うetc. - 卑下慢
卑下して自慢する心
例:「私は悪い人間です」と言いながら、心では「私ほど謙虚に自分を直視している人間はいない。だから私は偉いんだ」と思うetc. - 邪慢
汚点を自慢する心
例:「泥棒が盗みの巧みさを誇る」「不良だったことを誇る」etc.
この心理を裏づける研究もあります。
実際の自分の写真と、デジタル修正して魅力をアップした自分の写真を並べ、どちらが実際の自分の写真か選ばせたところ、75%以上が後者を選んだといいます。
また、心理学者のK・パトリシア・クロスによれば、大学教授の94%が、自分を平均以上の教師であると考え、また68%が、教師としての優秀さにおいて、自分が上位4分の1以内にランクされると考えているといいます。
他にも、大きな交通事故に遭った経験のある人たちが自分の運転能力を高く評価していたなど、この種の実験は数多くなされています。
「この種の実験をかいつまんで言うと、被験者は、結果がよければ、それを自分の能力のおかげと考え、悪ければ、自分にはコントロールの及ばない外的要因のせいにしようとする」(ロバート・クルツバン/ペンシルベニア大学准教授)
「研究につぐ研究が示す通り、大多数の人は、運動能力から社交術までさまざまな面で自分が平均以上だと考えている」
「平均的な人が、自分は平均的な人よりよい行いをたくさんするし、悪い行いはあまりしないと信じているというのもその1つだ」(ロバート・ライト/科学ジャーナリスト)
あるアメリカの研究では「成功の功績は自分のものとするが、失敗の責任は他人に押しつけがち」など、人々に共通してみられる8種類のバイアス(偏見)を挙げています。8つのバイアスすべてについて、平均的なアメリカ人は「平均的なアメリカ人は自分よりそのバイアスの影響を受けやすい」と答えています。クルツバンはこの結果を、「私たちは、『自分が平均より上だと考えるバイアスが自分にはかかっていないから、自分は平均より上だ』と考える」とまとめています。
すべての人間は慢の塊です。頭では自惚れ強いとわかっても、腹底では全然わかっていません。心から自分をバカな人間だとは思えないバカさ加減があるのです。