すべての生けとし生けるものは、次の6つの世界を輪廻していると説かれます。
地獄界:苦しみしかない世界で、六道の中で最悪の世界
餓鬼界:餓鬼が住む世界で、飢え苦しむ世界
畜生界:犬や猫、虫や魚などの世界
修羅界:修羅が住む世界で、争いが絶えない世界
人間界:私たち人間が住む世界
天上界:天人が住む世界で、六道の中で最も楽しみが多い世界
自分たちは人間として生まれていますが、これは非常に難しいことなのです。
人間に生まれる確率
それがいかに困難なことであるか、仏教では様々なたとえで教えています。
・爪上の土
人間に生まれる者は爪の上の土ほどの数で、地獄に堕ちる者はあらゆる世界の土のような数
・盲亀浮木
百年に一度、海の上に顔を出す盲目の亀(盲亀)が、水面に漂っている浮木(この浮木には亀の頭のサイズに等しい穴が空いている)から顔を出す確率よりも難しい確率
仏説は本当か
これが本当であれば、奇跡としか言いようがない驚くべき確率ですが、科学が明らかにした世界を知れば、少しも誇張ではないことがわかります。たとえば畜生だけでも膨大な数がいます。
・種の数
環境省によれば、種の数は次のようになっています。
「全世界の既知の総種数は約175万種で、このうち、哺乳類は約6,000種、鳥類は約9,000種、昆虫は約95万種、維管束植物は約27万種となっています。まだ知られていない生物も含めた地球上の総種数は大体500万~3,000万種の間という説が多い」
また、地球上に現れた種のうちの99%は絶滅したといわれています。もしそうだとすると、地球上に生命が発生してからこれまでに生まれた生物の種は約5億~30億種という計算になります(ちなみに仏典の所説によれば34億種類の畜生がいるという)。
・個体の数
ナショナルジオグラフィックによれば、地球上にはアリだけでも一京匹以上いるといいます。また、微生物は10の30乗個いると推定されています(ちなみに、人体の内部や表面には1万種を超える微生物がおり、細胞のおそらく90%は微生物であるといわれている)。
そして、30億年の生物の歴史から見ると人類の歴史は一瞬で、ほとんど単細胞生物です。地球に生命が誕生した歴史を24時間に圧縮すれば、人類の祖先は午前零時の47から96秒前に現れたにすぎず、現生人類が現れたのは午前零時のたった2秒前になります。
想像できないほど膨大な数ですが、この数字は畜生だけの数です。他の4つの世界、つまり、「天上」「修羅」「餓鬼」「地獄」は入っていません。中有界(いわゆる幽霊の世界)も入っていません。
これらの点を参考にすれば、仏説が誇張ではないということがわかり、いかに人間として生まれることが奇跡かということが頭だけでもわかってくるでしょう。
人間に生まれる喜び
自分たちは、単細胞生物よりはるか昔から存在しており、生死を繰り返して今ようやく人間として生まれました。人間に生まれることは大いなる喜びです。
「まづ三悪道を離れて、人間に生まるること、大なるよろこびなり。身は賤しくとも畜生に劣らんや、家は貧しくとも餓鬼には勝るべし。心に思うことかなわずとも、地獄の苦しみには比ぶべからず。世の住み憂きは厭うたよりなり。このゆえに、人間に生れたることを喜ぶべし」(横川法語)
(訳:三悪道を離れて、人間に生まれたということは大きな喜びである。どれほど賤しい身であっても畜生ほどではない。どれほど貧しくとも餓鬼には勝る。どれほど願いが叶わなくとも、地獄の苦悩とは比較にならない。人生の苦悩を感じたら、それはこの穢れた世を厭い離れる便りである。このために、人間に生まれたことを喜ぶべきである)
・人間界しか仏教を聞けない
六道の中で1番幸せな世界は、天上界ではなく人間界です。
なぜなら、仏教を聞いて輪廻から抜け出すことができる世界は人間界だけだからです。
長阿含経には「天上天下唯我独尊」という有名な言葉があります。釈迦は生まれてすぐに東西南北に7歩ずつ歩き、右手で天を指差しこのように言ったと伝えられています。
この話が本当かどうかは別として、本質は次の2点です。
7歩の「7」という数字は「6+1」ということですが、これは六道から1歩出る、つまり六道輪廻からの解脱を表しています。
天上天下唯我独尊とは、世間でよくいわれるような「自分だけが偉いのだ」という意味ではなく、「私しかできないたった1つの尊い使命がある」という意味で、人生には目的があるということを教えている言葉です。
つまり、すべての生物は人間に生まれることを目指し、悟りを開くことを目指して生きているということになります。
・いつかはゴールする
人生には、ゴールと呼べるものが存在します。微生物含めすべての生物が、いつかはゴールである死の解決ができるようになっています。
そのためには、まず、幾度となく生死を繰り返して人間に生まれる必要があります。
さらに、幾度となく生死を繰り返して仏法と出遇う必要があります。
そして、さらに幾度となく生死を繰り返して仏法を聞く必要があります。
そうしてようやくゴールできます。当然のことですが、何回も生まれ変わるということは、それだけ地獄に堕ちる回数も増えます。
・「ありがとう」の語源
人間に生まれることは非常に有ることが難いことです。感謝の気持ちを表す「ありがとう」の語源ともいわれています。
・日本に生まれる有難さ
多くの天才たちがいくら考えてもわからなかった不可解な人生が、科学の面からも明らかになりつつあると言え、現代の日本は実に幸せな環境にあります。