トルストイと歴史家のナピールに学ぶ約束の重さ

約束の重さについて教えた話も数多くあります。
歴史家のナピールが歩いていると、見るからに貧しそうな少女が、陶器の欠片を持って泣いていました。声をかけてわけを聞くと、牛乳を買いに行こうとしたところ、家主から借りたビンを落として割ったのだといいます。さらに事情を聞いてみると、少女は早くに母を亡くし、大病をわずらっている老父の世話を1人でしているといい、強欲な家主に叱られると思い途方に暮れていたのだといいます。
ナピールは何とかしてあげたいと思いましたが、貧乏学者だったため手持ちがありませんでした。そこでナピールは、「明日の朝、弁償するだけのお金を持ってくるから、またここにおいで」と少女と約束しました。
翌日、約束を果たすため出かけようとすると、一通の手紙が届いていることに気づきました。開けてみると、ナピールに研究費を出してくれる貴族が見つかったという連絡でした。しかし、その貴族は今日の午後に帰るから、すぐに会いに来いとのことでした。ナピールは、少女との約束とどちらを取るべきか悩みました。
しかし、人として取るべき道は決まっていました。
「今日は大事な用件があるから行くことができない」と断り、少女との約束を果たしに行きました。
傲慢な奴だと思った貴族は怒りましたが、後に事情を知って驚き、今度は自分から援助を申し入れたといいます。
もう1つ紹介しましょう。
ある日、トルストイが散歩していると、向こうから若い母親が小さな女の子を連れてやってきました。すれ違いざまに、女の子がトルストイの鞄を見るや、あの鞄が欲しいとせがみました。母親がたしなめましたが、それでも言うことを聞かず、大声で泣き始めました。それを見兼ねたトルストイは、「明日になったら使わなくなるからあげよう」と約束しました。
翌日、少女の家へ行ってみると、母親が沈んだ表情で出てきました。何かあったのか聞いてみると、母親は、「昨夜、急に娘の具合が悪くなり、医者を呼んだものの間に合わず・・・」と言って泣き崩れました。何が起こっているのかわからず、トルストイは呆然としました。
しばらくして気を取り直し、棺に案内してもらいました。そして、そっと鞄を棺に入れて帰ろうとしました。
「もう娘は死んでしまったので鞄はお持ち帰りください」
このように言う母親にトルストイは、「いや、お子さんは亡くなられても約束は生きております。私は、約束を破るような男にはなりたくないのです」と言ったといいます。
軽薄な人間は簡単に約束して簡単に破りますが、大人は簡単に約束せず約束したら決して破りません。

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