すべての不幸を勝縁にする

勝縁とは、すぐれた良い縁のことですが、一切の不幸(幸もですが)を死の解決のための勝縁とすべきです。
作家のプルーストは、「病人というものは、正常な人よりも己れの魂により近く迫るものだ」と言いましたが、不幸な時というのは無常を観じる良い機会です。
庄松がある同行を誘って聴聞に行こうとした時のことです。その同行は、「今日は、病気で具合が悪いので聴聞を休みたい」と言いました。それを聞いた庄松は、こう言って叱りました。
「元気がいいわしでも聞きに行くんだぞ」
目が覚める思いがした同行は、一緒に聴聞に行ったといいます。
大切な人を失った場合も、酷く落ち込むだけではなく、「やがて自分も同じように死んでしまう」と無常を観じる勝縁とすべきです。
「鳥辺山 昨日の煙 今日もたつ 眺めて通る 人もいつまで」という古歌もあります。
小林一茶は、「送り火や 今に我等も あの通り」と詠みました。
「次はお前だ」と刻まれた墓碑もあるそうですが、見方を変えれば、大切な人が自らの命をかけて無常を教えてくれているのです(身業説法ともいう)。勝縁にできないと、彼らの死が無駄になってしまいます。
「そういう変わり果てた姿に対面することは、死者への最後の情であるばかりでなく、あなた自身に対する、死者からのせめてもの好意を受けることになる。その好意とは、ほかでもない。あなた自身に、かならずやってくる『死』について、少なくとも、本気で考えるきっかけをつかませてくれることである」(野々村智剣)

熊本地震で4歳の娘を失った宮崎さくらさんは次のように語ります。
「震災があって花梨(娘)が亡くなってそのときに初めてね、普通に生きていることは全然普通でもなんでもなくて・・・・いつ壊れたっておかしくないんだって。それを教えてもらった。気づかせてくれた」
世間でも、肉親の死を起爆剤にして成功したという人は少なくありません。たとえば、歌手のマドンナは、5歳の時に実母を乳癌で亡くしていますが、この母の死がその後の活動の原動力になったといいます。
「母が亡くなったあと淋しさでぽっかり穴があいたようで、なにかを切望せずにはいられなかった。あの空虚感がなかったらあんなにがむしゃらにならなかったでしょうね」(マドンナ)
努力の向きを無常の幸福ではなく、死の解決にすればいいのです。
キサゴータミーという痩せて貧しい女がいました。
子供を産み、無上の宝を得たが如くに喜んでいましたが、その子供が突然死んでしまいました。キサゴータミーは気が狂わんばかりに泣き叫びました。埋葬しようとする人に遺体を渡そうとせず、生き返らせようとして来る人来る人に頼みました。
人々は哀れんだり笑ったりしましたが、キサゴータミーは決してあきらめませんでした。
狂ったように歩き続けていると、哀れんだ人が、「お釈迦様なら願いを叶えてくださいます。行ってみてはどうですか」と教えてくれました。喜んだキサゴータミーは、すぐに釈迦のもとへ行き頼みました。
「あなたは、この子を生き返らせることができると聞いて伺いました」
「そうです、確かに私は知っています。白いけしの実をひとつまみもらってきなさい」
「何て簡単なことでしょう。すぐ手に入れて参ります」
お辞儀し、喜んでその場を去ろうとすると、釈迦は一言付け加えました。
「ただし、今までに死者を出したことのない家からもらってきなさい」
「わかりました」
キサゴータミーは上の空で返事をし、子供を抱きかかえて一軒一軒訪ね歩きました。
「こちらの家にケシの実はありますか」
「はい、ありますよ」
ケシの実を手にし、急いで戻ろうとした時、釈迦の言葉を思い出しました。
「この家では誰か亡くなったりしたことはないですよね」
「何を言うんです。そんなはずないでしょ」
落胆し、ケシの実を返して次の家へ行きました。
ところが、どこへ行っても死人を出したことがない家は見つかりませんでした。陽は落ち、雨が降り出し、足には血が滲んでいました。
探し続けるうちに段々と冷静になり、死を忘れていた自分に気づきました。
(愛するわが子でもいつまでも一緒におれない。この一番可愛い肉体とも別れねばならない・・・・)
子供を抱いて森に入り手厚く葬ると、その足で釈迦を訪ね、出家を願い出ました。釈迦は言いました。
「生きている者は必ず死ぬのです。これは不変の真理です」
キサゴーダミーは、子供が死んでから釈迦の弟子になりました。
今日、妙好人と評される三河のおそのという人は、男女2人の子を産みましたが、長男は生まれてすぐ死んでしまいました。
さらに不幸なことに長女も3歳の時に、家のすぐ前で野良犬に襲われてかみ殺されてしまいます。可愛い盛りの娘が血みどろになって死んでいく姿に、おそのは半狂乱になりましたが、このことが機縁となって真剣に仏法を聞くようになったといいます。
同じく、妙好人として評される六連島のおかるは、目の前で夫が死に、夫の葬式を他人に任せて寺に駆け込みました。
このように死の解決をした人は皆、不幸を勝縁としています。

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