人間は形に影響を受けます。このことは体験的にわかっている人が多いと思いますが、研究している人もいます。
心理学者の春木豊(早稲田大学名誉教授)が、著書「動きが心をつくる」の中で紹介している事例です。顔の方向が「上向き」「正面」「下向き」のそれぞれについて、背骨が直立の場合と曲げた場合の計6種類の姿勢をとったところ、首が下向きの場合と、背筋を曲げた場合でネガティブになったといいます。
「うつ気分になるとうつむき姿勢になることはだれしも経験していることであるが、逆にうつむく姿勢をとると、うつの気分がかもし出されるともいえるだろう」(春木)
また、視線を下に向けただけで、うつ気分が大きくなったという事例や、うつむきの姿勢で音楽を聞くと他の姿勢よりネガティブに聞こえるという結果なども紹介しています。
服装、姿勢、表情etc.形は心に影響を与え、心は形に表れるのです。聴聞の場合、聞く側はスーツを着、説く側は教戒服を着ます。髪の毛は煩悩を表しているため、坊主にしたり短くします。坊主にしたぐらいで煩悩はなくなりませんが、意味はあります。座り方も様々ありますが、最も心を整えるのに適した座り方とされている正座が基本です。最初は20分ともちませんが、訓練するうちに30分、1時間、2時間とできるようになってきます。
・形を作れる有り難さ
こういった理由から、形を作れるということは有り難いことです。たとえば、形を作りたくても障害があって作れない人もいます。手足のない中村久子は、「仏様に合掌したくても合わせる手がない」と言って悲しんでいたといいます。肉体は死の解決をするためにあります。使えるうちに使うべきです。やがて全身を失う時が必ずきます。