真の幸福のためにすべてを捨てた釈迦に学ぶ

悟りを求めることを求道といいますが、求道は総力戦です。すべてを捨ててかからないと達成できません。仏教の開祖である釈迦に学びましょう。

釈迦の求道

釈迦は、今から2500年程前の4月8日、インド(現在のネパールのルンビニ)にて、シャカ族の王子として誕生しました。
釈迦は幼少から人並み外れた才能を発揮します。7歳の頃、学問と武芸の先生として、それぞれバッダラニーとセンダイダイバーというインドで1番優れているとされる家庭教師がついていました。しかし、あっという間にこの2人の能力を上回ってしまい、2人が「太子には何も教えることが無い」と辞職を願い出たほどだったといいます。
やがて成長して16歳になると、隣国コーリ城主の娘ヤショダラ姫と結婚し子供を設けます。
何不自由ない生活を送っていましたが、「老」「病」「死」といった人間の根本的な問題に悩み、その思いは日増しに強くなっていきました。
いつも憂慮している釈迦を見て、父である浄飯王も頭を悩ませていました。何とかして釈迦に王位を継承させたかった浄飯王は、「このままでは本当に出家してしまうかもしれない」と恐れたのです。そこで、三時殿と呼ばれる、夏期・雨期・冬期の3つの季節に対応した宮殿を建立したり、インド中の美女を集め贅の限りを尽くした宴を催すなど、様々な手段を用いて釈迦を思い止まらせようとしました。欲に耽溺させることで出家を阻止しようとしたのです。
しかし、何をやっても釈迦に変化はなく、それどころか火に油を注ぐ形となり、ますます出家への思いを強くしていきました。
「ここまでやってあげているというのに、お前は一体何が不満なんだ。願いは何でも叶えてやるから言ってみろ」
業を煮やした浄飯王が問いただすと、釈迦はこう答えました。
「私の願いは、『老』『病』『死』の苦しみがなくなることです。この願いを叶えて頂けるのなら王となります」
当然、この願いは浄飯王には叶えられません。浄飯王は何も言えなくなりました。
そして、29歳の時、死の解決をするため釈迦は出家しました。出家したということは、すべてを捨てたということです。家族も王位も捨てたわけですが、こういったものを大事にしていなかったわけではなく、むしろ非常に大事にしていました。それにもかかわらず捨てたということは、死の解決は、大事な家族よりももっと大事な問題であることを意味します。
出家した釈迦は、悟りを開くために山林で厳しい苦行に入りました。禁欲したり激しく肉体を痛めつけることで、何度も仮死状態になったといいます。6年もの苦行の後、「悟りを得ることができなければこの座を立たない」という決意の末、ついにブッダガヤの菩提樹の下で仏の悟りを開いたとされています。釈迦が35歳の時です。

求法太子(釈迦の過去世)

釈迦は今生だけでなく、過去世から法のために一切を捨てています。ジャータカ(釈迦の前世物語)からも1つ紹介しましょう。
波羅捺国に梵摩達多という王がいました。王は国民のためを思い善政を敷いたため、国は豊かで国民は平和に暮らしていました。
やがて夫人が懐妊し、立派な男の子が誕生しました。立派な名をつけようと思い悩んだ末、求法と名づけました。
成長するにつれ、その名の通り法を求め、四方に良師を求めるようになりました。しかし、どんな人に聞いても心から満足いくものではなく、太子は懊悩していました。
しばらくして、1人の修行者が宮殿に現れました。
「私は真実の法を悟っている。誰かこの法を聞く者はいないか」
この言葉に慶喜した太子は、急いで出ていきました。そして、修行者を宮殿に招き入れ、丁重にもてなし、法を求めました。すると修行者は太子に尋ねました。
「法を聞くことは甚だ難しいことである。太子はどれほどの代償をもって聞こうとするのか」
太子は答えました。
「もし真実の法を聞かせて頂けるなら、私がもっている財産や地位、名誉、それだけでなく妻子も、すべてあなたに差し上げましょう」
「そういったものは私には価値がない」
「では、何をお望みなのでしょうか」
「深さ十丈の穴を掘り、その中に火を満たし、その中に身を投げれば法を説こう」
太子はこれを聞いて歓喜し、早速穴を掘って火を満たしました。
するとそこへ、両親や妻子、諸大臣が騒ぎを聞きつけやってきました。そして、修行者に出ていくよう命じました。それを聞いて修行者は憤慨しました。
「私が強要したのではない、太子が自分の意志でやろうとしているだけだ」
帰ろうとする修行者に太子は驚きました。
「お待ちください!あなた様のおっしゃる通りにいたします!」
いよいよ危機感を募らせた王は必死で太子を止めようとしました。
「お前には国を継ぐという大事な責務がある。親を苦しませて平気なのか」
妻子も泣きながら訴えました。
「あなたは子供が可愛くないのでしょうか。どうかおやめください」
諸大臣も嘆願しました。
「国民のためにもどうかおやめください」
皆、必死に止めようとしましたが、太子の心はぐらつきませんでした。
「私は、これまで無量の生死を繰り返してきたが、欲や怒りのために死に、法のために命を捨てたことがなかった。菩提を得るためにこの命を捨てるのだ。どうして私を止めようとするのか」
太子の言葉に、もはや誰も止める者はいませんでした。
「ただ、死んでしまっては法を聞くことができない。大師よ、その前に法をお説きください」
修行者は太子のために一偈を説きました。太子はこれを聞いて喜び、脱兎の如く火坑に身を投げました。両親、妻子、諸大臣が悲鳴をあげた次の瞬間、目を疑う光景が広がっていました。火坑が蓮華宝池に変わり、その中に太子が座っていたのです。
その時、大地は六種に震動し、空中からは妙なる音楽が聞こえ、諸々の天華が雨降らしました。
そして、修行者は帝釈天の本身を現し、太子の求道心を讃嘆しました。修行者は、太子の求道心を試そうとして現れた帝釈天の化身だったのです。

雪山童子(釈迦の過去世)

遠い昔、雪山童子という若い男が真理を求め、険しい雪山で一心に修行に励んでいました。
徹底して修行する姿に帝釈天は驚きました。そして、童子の求道心を試そうと思い、恐ろしい鬼に化けて童子の近くへ行きました。
「諸行無常 是生滅法(諸行は無常なり 是れ生滅の法なり)」
こんな言葉がどこからともなく童子の耳に聞こえてきました。
(確かに一切は無常なるものだ!この言葉こそ、私が長年求めていたものだ!)
童子は狂喜し、声の主を探しました。しかし、あたりには誰もいませんでした。
(あの偈こそ求めているものに違いないが、あれは一部分だけだった。どうにかして残りを聞かなければ・・・)
童子が森の中を懸命に走って探していると、突然恐ろしい形相の鬼が現れました。
(あんな醜い鬼が声の主なわけがない)
しかし、鬼以外に誰もいませんでした。
(もしかしたらあの鬼が誰かから聞いて、あの偈を言ったのかもしれない)
そう思った童子は鬼に聞いてみました。
「先ほどの声の主はあなたですか」
鬼は煩わしそうに言いました。
「そんなことを聞かれても困る。私は腹が減っているのだ。空腹のあまり訳のわからないことを口走ったのかもしれない」
その言葉を聞いて、童子は声の主がこの鬼だと確信しました。
「お願いです、あの偈の続きを教えてください。そうすれば私はあなたの弟子となって一生お仕えします。誓って嘘は申しません」
鬼は黙っていました。
「どうして私の願いを聞いてくれないのですか。食べ物や宝物なら分け与えれば減ってしまいますが、言葉は減りはしないでしょう。ただ人を幸せにするだけではありませんか。どうしてそれを惜しむのですか」
「お前は自分のことばかり考えている。私は腹が減って死にそうなのだ」
「あなたの食べ物は何でしょうか。私が今すぐ探してきます」
「聞かないほうがいい。お前には用意できないだろう」
「私は真理を知ろうとして修行に励んでいます。どんなことを言われても驚きません」
「では言おう。私は人間の肉を食べ、血を飲んで生きているのだ。どうだ、お前には用意できまい」
「わかりました」
「修行者のお前が人を殺すというのか」
「いいえ、私の体を差し上げます。ですので、残りの偈文を教えてください」
「誰がそんなことを信用するというのか」
「いくら命を惜しんだところで、いずれは何も得るものもなく死んでしまいます。しかし、私は今こうして求めるものの一部を聞くことができ、さらにその残りを聞く機会に巡り会っているのです。それなのに、どうして命を惜しむことがあるでしょう」
童子の決意が固いことを鬼は知りました。
「よろしい。それでは、残りの言葉を聞かせよう」
「生滅滅已 寂滅為楽(生滅を滅しおわりて 寂滅を楽と為す)」
これを聞くや、童子は大きな歓喜を生じせしめました。生もなく滅もない絶対の境地を悟ったのです。
(この世に思い残すことは何もない。しかし、このまま死んでしまっては、後の世の人々にこの教えを伝えることがない)
こう思った童子は、辺りの木や岩など、次々に偈文を刻みつけました。
そして、もう刻むところがないと思うや、童子は高い木にかけ登り、ためらいもなく身を投げました。
体が地面に叩きつけられそうになった次の瞬間です。鬼は帝釈天の姿に戻り、童子を受け止めました。そして童子を地面に下ろし、合掌して言いました。
「すばらしい、あなたこそ真の菩薩です。あなたは未来の世で必ず仏となり、闇の世を明るく照らすことでしょう。あなたを疑い、試したりしたことをお詫びします」
雪山童子とは釈迦の前身です。過去世において、これほど命がけで修行してきたので、今生で仏の悟りを開くことができたのです。

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