やっぱり死は怖かった。臨死体験研究のパイオニア的存在、エリザベス・キューブラー=ロスの嘘

「死は怖くない」と主張する人はたくさんいます。しかし、平生元気がいい時に想像する死と実際の死との間には深い深いギャップがあります。そのことをこちらで詳しく説明しました。

死より怖いものはない。死は怖くないと思わせる心がある。死の恐怖は人間の優れた能力。

ここではキューブラー=ロスの事例を紹介しましょう。

精神科医のエリザベス・キューブラー=ロスは、ターミナルケア(終末医療)の先駆者であり、「死の専門家」といわれていた人です。彼女が提唱した「死にゆく過程の五段階説」は世界中の医学の本に載るくらい有名で、要約すると次のような内容です。

第1段階(否認)
大きな衝撃を受け、「何かの間違いだ」と死の事実を否定する
第2段階(怒り)
死が否定しきれない事実だと自覚した時、「なぜ私がこんな目にあうのか」と怒る
第3段階(取引)
「何でもするので助けてください」と神と取引する
第4段階(抑うつ)
取引も無駄だとわかり、絶望し、抑うつ状態になる
第5段階(受容)
最後は、死を受容し、心が安らかになる

また、ロスは2万件以上の臨死体験を集めるなど臨死体験研究においてもパイオニア的な存在であり、自身も体脱体験をしていたといいます。
そういった経験もあり、「死は安らぎです!」と言うなど、彼女は死をまったく恐れていないようでした。
ロスがいかに死や死後が良い世界だと思っていたか、それがわかる表現を彼女の著書「死ぬ瞬間」からいくつか抜粋します。
「私は『死とその準備』を看板にしている女ですから、死ぬことは怖くありません」
「私は多くの神秘的な体験をしてきました。おそらく、人間に可能な神秘的体験なら全部経験したといってよいでしょう。ドラッグなど飲まずに至高の時を経験しましたし、患者が死ぬ間際に見る光りも見ました。みんなが死と呼ばれる推移に至る時に経験する、不思議な無条件の愛に取り巻かれたこともあります」
「死の瞬間、私たちは繭から出て、ふたたび蝶のように自由になるのです」
「私たちは死ぬことを心配するよりも、思考においても言葉においても、最高の選択をすれば、死の瞬間は祝福に満ちた輝かしいものとなるのです」
「死とは、この人生から別の存在への移行にすぎない。別の存在になれば、痛みも苦悩もなくなる。それを知っていれば、喪失や悲嘆のさなかでも、愛している人が無事であるということを知る助けになる」
ロスの影響力は大きく、「死後は良い世界」とか「死は怖くない」といった主張の裏づけに、彼女の名前を引用している人はかなり多いです。
しかし、ロス自身が脳卒中になり、いざ自分が死ぬとなった時のことです。
心理学者の河合隼雄(元文化庁長官)は、その時の彼女にインタビューした記事を作家の柳田邦男から送ってもらったといいます。
「柳田さんも書いておられたが、内容はショッキングなものであった。全体は暗いトーンに包まれており、キューブラ・ロスは孤独であり、今は誰にもあまり会いたくない、夜になって鳴き声の聞こえてくるコヨーテや鳥こそが自分の友人だと語る。死んでいく自分を受容することは、実に難しい。それには『真実の愛』が必要だが、自分にはそれがない、と彼女は言う。インタビュアーが、あなたは長い間精神分析を受けたので、それが役立っているだろうに、と問いかけると、精神分析は時間と金の無駄であった、とにべもない返答がかえってくる。彼女の言葉は激しい。自分の仕事、名声、たくさん届けられるファン・レター、そんなのは何の意味もない。今、何もできずにいる自分など一銭の価値もない、と言うのだ。
これを読みながら、私の心はだんだん沈んでいった。キューブラ・ロスほどの人が、と思う。この頃は、自分の老いや死について考えることが多いので、死を迎えることの困難さに思い至らざるを得ない」(河合隼雄著「平成おとぎ話」より)

この時のロスにNHKもインタビューしています。

ロス:40年間、神に仕えてきて引退したら脳卒中の発作が起きた。何もできなくなり歩くことさえできなくなった。だから私は烈火の如く怒って神をヒトラーと読んだ
NHK:苦しむ患者を助けてきたのになぜ自分を救えないのか?
ロス:いい質問ね。私はおかしくなってるんじゃなくて、ただ現実を直視しているだけよ。むしろ頭はさえているわ。だって今の自分に満足なんて、そんなフリはできないわ。自分でお茶を入れることさえできないのよ。最低の毎日だわ。この状態をバラ色だなんていえるわけがない
NHK:あなたは自分を愛するべきと本に書かれていますね
ロス:いや、それには触れないで。愛の話なんかしたくないわ。
NHK:なぜですか?
ロス:気分が悪くなる。自分自身を愛せって?よく言ったもんだ。大っ嫌い。私の趣味じゃない
(2004年12月25日(土)放送「最後のレッスン ~キューブラー・ロス 死のまぎわの真実~」より)

良い臨死体験に限らず、良い超心理体験をしたことなどから、死後を良い世界だと確信し死の不安や恐怖もなくなった、と主張する人は多いです。
「死後は良い世界なのだから、人が死んだらお祝いしましょう」という人もいます。
しかし、そう確信していた人が、実際に自分の死に直面すると、ロスのように価値観が根本から覆ってしまうという事例も多くあります。

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